カーボンニュートラルに向けて、地政学的理由や円安とは異なる、政策として持続的な化石資源関連の価格上昇が始まることが予想されます。この政策リスクを正しく理解して、今から準備を進めることがGXに対応することにもなります。

GXとは

GXとは「グリーントランスフォーメーション」を示します。「グリーントランスフォーメーション」とは、2050年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取組を経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて、経済社会システム全体を変革していくことです。

現状

現在、原油をはじめとする化石燃料(原油、石炭、天然ガス)が高騰しています。先物取引などで将来リスクを見込んで高騰が行き過ぎている印象もあります。しかし、現状の根本原因は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた地政学的なものと考えるのが妥当です。一大産油国であるロシアが戦争の当事者となり、各国の経済制裁により原油の供給が行われなくなることへの警戒感(供給への不安)が原因といわれています。さらに、国内外の金融政策のギャップで円安が進み、輸入資源である化石燃料価格がさらに上がっています。

このような原油高も、地政学的なリスクが収まり、円安も落ち着けば、これまでの水準にしばらくは戻ると思われます。しかしながら、その先は、2050年に向けて、ほぼ確実に化石燃料とそれにかかる原材料等は価格が上昇します。その原因は、政策として化石燃料の使用をできる限り抑制させるためです。いわゆる、カーボンニュートラル政策です。

これから起こること

菅前総理のカーボンニュートラル宣言から国内のカーボンニュートラルは急速に前進しています。政策としてのカーボンプライシングの議論も例外ではありません。カーボンプライシングとは、炭素(二酸化炭素=CO2)などの温室効果ガスの大気への排出量へ価格付けをすることです。価格付けの方法については、炭素税、排出権取引、国境炭素税、自主的なクレジット取引、賦課金が検討されています。

これまでの経緯としては、炭素税に関しては、「税制全体のグリーン化の推進に関するこれまでの議論の整理(平成24年9月4日中間整理) 」(税制全体のグリーン化推進検討会)で触れており、炭素税を含むカーボンプライシングの議論も平成29年6月2日の「第1回カーボンプライシングのあり方に関する検討会」(環境省)で議論は始まっていました。しかしながら、産業界(経産省含む)の反対により、幾度となくスルーされてきました。

今回、具体的なカーボンプライシングの検討内容(経産省から賦課金と排出権取引制度※)が現実的なカーボンニュートラル政策案としてGX実行会議で首相の前に出るところまで来ています。このことにより、遠くない将来において、カーボンプライシングが制度化されると考えてよいと思います。ちなみに、岸田首相自身もカーボンプライシングはハイブリッド型で実施していくだろう旨の発言をしています。※第11回 産業構造審議会 産業技術環境分科会 グリーントランスフォーメーション推進小委員会(2022/12/14)

カーボンプライシングの導入時期

現在、物価高政策として、ガソリン等への補助金(燃料油価格激変緩和補助金)の実施や、来春には電気・ガス代補助(電気・ガス価格激変緩和対策事業)が予定されています。これらは、カーボンプライシングと相反する政策となります。従って、これらの政策が落ち着いてから実施が始まると考えられます。

ちなみに、カーボンプライシングについて、世界では、いくつもの国や地域で既に実施されています。最近では、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける国境炭素調整措置(CBAM、国境炭素税)を導入することで、欧州議会とEU加盟国からなる理事会が合意しました(2022/12/13)。着実に、世界はカーボンプライシングに向かっているということです。

対応の仕方

経営戦略として、省エネ・省資源から生産性向上をすすめ、カーボンニュートラル・資源循環となるGXに適応した経営を目指します。カーボンニュートラル・資源循環が達成できれば、カーボンプライシングによるコストアップは最小限となります。

また、事業内容的にカーボンニュートラル・資源循環に適応できないことが予想される場合、そのままではGXに取り残されるということを意味します。今から経営戦略・事業戦略を練り直す必要があります。

利用できる施策

カーボンプライシングはカーボンニュートラル政策としての「ムチ」ですが、政策の「アメ」を有効活用することも必要です。

大きなものとしては、グリーン成長戦略があり、政策ツールとして、基金、税制、金融、規制改革・標準化、国際連携が実施に移されています。例えば、研究開発・実証から社会実装までを見据えたNEDOの総額2兆円の「グリーンイノベーション基金」はインパクトがあります。 一方で、定番の補助金に「グリーン関連枠」を設定するなどの政策も見落とせません。「ものつくり補助金(グリーン枠)」や「事業再構築補助金(グリーン成長枠)」などをうまく活用することが、最初の一歩として重要となると思います。

以上(2022/12/21)